一人暮らし/71〜80㎡
30年以上住み慣れた23区内の住まいから、静かで落ち着いた場所に引っ越そうと西東京の団地を購入しフルリノベをされたK様。趣味の盆栽やパン作りも楽しみながら心地よく暮らせるよう、さまざまな工夫を凝らしています。年齢を重ねていく中で少しずつ増える生活の不安や気になることをどのように解決し健やかに暮らしていらっしゃるのか、設計を担当した齋藤も交えお話を伺いました。

——ベランダにはたくさん盆栽があるのですね。窓越しの緑が素晴らしいです。
K様:はい、教室に通って3年目なのでまだまだビギナーなんです。
——3年でビギナーなのですか!?
K様:1年目はありとあらゆる種類の盆栽を作って、2年目からは、1年目に作った盆栽をそれぞれの特性に合わせて月ごとに剪定していくんです。だから3年目といっても全然進んでいないんですよ。

▷インナーテラスの窓を開ければ、そこはすぐに盆栽の手入れができるコックピットに。わざわざ外に出なくても、日々のちょっとしたお世話が室内からスムーズに行えます

▷LDKと窓辺の間に設けたインナーテラスが、空間に心地よいゆとりを生みます。
齋藤:ベランダへの出入りと作業台を室内にもおいて盆栽の手入れをする、ということを想定してインナーテラスを設けることになりましたね。
K様:そうなんです。いまはベランダに台を置いて室内に居ながら窓を開けて手作業をしています。集中して作業しないと切るべきではない枝を切ってしまうこともあるので、この環境はありがたいですね。
——盆栽ってのんびりと楽しむイメージがありましたが、かなりストイックですね。
K様:そう、盆栽をするには「集中力」が必要です。それはもう一つの趣味であるパン作りも同じで。
齋藤:パン作りのための作業環境もこだわりましたね。
K様:はい、生地を捏ねる作業に没頭できるよう、キッチンに広い作業台を作ってもらいました。パンとお菓子を習いに行ったらすごく楽しくてハマっちゃいました。職場に持って行くこともありました。以前の住まいでは、大きな板の上でパンをこねていたんですが、板がすぐにずれて作業がしづらくて。今は人工大理石のカウンターを設けたので、キッチン用のアルコールスプレーをかければ、台の上で直接作業できて気兼ねなくこねられるので、ますますパン作りが楽しくなりました。

▷繊細な手入れが必要な時は、広々としたダイニングテーブルで。窓からの柔らかな光を感じながら、ゆっくりと盆栽と向き合うのがK様のスタイルです

▷人工大理石の天板は、パン生地をこねるのに最適。長時間でも無理なく作業ができるよう、カウンターの一部をオープンにして座れる仕様にしました
齋藤:テーブルで作業をすると少し高さが低いですしね。
K様:高さがちょうど良いだけじゃなくて、コンセントを設けたのもよかったです。時々ここでアイロンがけをすることもあり、とても重宝しています。以前は、冬はパンの種をこたつの中で発酵させていたのですが、引っ越しを機に「こたつの生活はやめよう!」と処分したんです。
——以前はこたつを使っていらしたのですね。
K様:はい。お元気できちんと生活されている90代の知人が「こたつは絶対に買ってはダメ。こたつがあると生活も自分もだらけてしまうから」とおっしゃっていて。テーブルと椅子で暮らしていらっしゃるのがかっこよくて見習いました。

▷シンプルで心地よい造作キッチン。生活感が出やすい冷蔵庫や家電はパントリーにおさめて、リビングダイニングからの眺めをすっきりと保つ工夫がされています
——盆栽のためのインナーテラスに、パンのためのキッチン。まさに没頭するための家ですね。そもそも、便利な都心からこの場所に移られたのも、そういった時間を大切にするためですか?
K様:そうですね。南千住での暮らしも便利でしたが、緑豊かで落ち着いたこの団地の環境が、今の自分には合っていると感じて。
——駅からは少し距離がありますが、その点は不安はありませんでしたか?
K様:徒歩15分ですが、すぐそばにはショッピングセンターがありますし、車移動がメインなので郊外の暮らしでも全く困らないですね。むしろ、余計なものを減らして、好きなことに向き合える今の暮らしがとても気に入っています。

▷豊かな緑に囲まれた贅沢な敷地環境は、大規模な団地ならでは。自転車置き場もきれいに整理整頓されており、管理体制の良さと、ここで暮らす人々の穏やかな日常が垣間見えます
——以前はどのエリアにお住まいだったのですか?
K様:23区内にあるURに約30年住んでいました。主人が亡くなった後、二人で住んでいた広さのURの家賃を払い続けることも大変で、引っ越しを考える中で「買った方が良いのかな」と思うようになりました。
——23区から離れたのはなぜですか?
K様:静かで落ち着いたところがいいなという思いがありました。EcoDecoさんには物件探しからサポートしていただいたのですが、エリアに強いこだわりはなかったので、予算をお伝えして幅広い候補から探していただきました。
——こちら以外にどの辺りをご覧になったのですか?
K様:八王子や神奈川の手前、練馬区なども行きました。この団地は落ち着いていてのどかな雰囲気が気に入り、複数の部屋を内見しました。この部屋はベランダから見える緑の多さが決め手の一つでした。
——家づくりのテーマなどはありましたか?
K様:一人暮らしなので1部屋で良いし、自分のことだけを考えようと思いました。以前の住まいや実家で家族の介護をしていた際、車椅子で室内を移動すると扉を開けるのがすごく大変だったんです。自分がこれから年齢を重ねて歩けなくなった時のことを思うと、部屋を扉で区切るのはやめようと思いました。

▷壁や扉で完全に区切らずルーバーで緩やかに区切りました。朝日が柔らかく差し込み自然と目が覚めるそうです
——言われてみると、扉だと開閉時に車椅子が邪魔で手が届きませんね。
K様:そうなんです。トイレもスペース的に扉をつけると車椅子で入ることは難しいと思いやめました。
齋藤:おひとり暮らしのリノベーションでは、洗面脱衣兼トイレというプランにされる方は少なくないですね。何より便利ですし、空間も広くなるのでメリットは多いです。
K様:施工事例で拝見して「これはアリだな」と思いました。

▷あえて扉を取り外したトイレは、スペースに余裕も生まれゆとりのある脱衣スペースに。床はBOLON(ボロン)

▷洗濯洗面室からクローゼットへスムーズな動線で、洗濯から収納までの流れもノンストレス。セラドングリーンのタイルはニッタイ工業のもの
齋藤::K様は施工事例をたくさんご覧いただいていて、それを手がかりに計画しました。ライブラリースペースもその一つですね。
K様:自宅に図書館があると良いなと思っていたので、作っていただいたんです。元々主人の蔵書が本当にたくさんあったのでそれを収めるつもりでした。ですが、専門書も多かったので、必要としている人に読んでもらえたほうが良いだろうと、ほとんどを売却しました。今あるのは私の仕事の本と漫画くらいです。
——ご自身の好きなものだけに囲まれた空間ですね。夜、静かに過ごすのも良さそうです。
K様:そうなんです。夜はリビングの天井の照明を消して、間接照明だけで過ごします。

▷図書館のようにしたかったというライブラリースペースは、リビングの一角に。まだまだ蔵書に余裕があります
——スペース的にはまだまだ余裕がありますね。
K様:実家や以前の住まいの片付けをした際に、モノが多いと残された人の片付けが大変だということを身をもって学びました。なので、スペースはあってもモノを増やすこと自体がちょっと怖くて買えないところがあります。本当はソファやラグの購入も検討してはいるのですが、捨てることを思うとなかなか踏み切れないですね。
齋藤:K様ご自身はもともとモノが多い方ではないのですか?
K様:それぞれのモノに対して自分の中で決めた定数があるので、1個買ったら1個捨てるようにしています。そうしないとモノって増えていくんですよ。
——モノの数以外にも気をつけていることはありますか。
K様:整理整頓かもしれません。モノを探しやすく、出しやすくするというか。引っ越し当初は両親や主人の持ち物をほとんどそのままここに持ってきて積み上げていたんです。「これは本当にいるのかな?」と思いつつも捨てるのはイヤで。でも誰かが使ってくれるなら納得できると思い、買取をお願いして整理しました。
——それは当然時間のかかることですよね。今も大切に置いているモノはありますか?
K様:キッチンのハンガーバーに提げている鍋つかみは母が裁縫で作ったものです。主人のものはレコードの他にも趣味だったボウリングで受賞したトロフィーやボウルも置いています。

▷キッチンのステンレスバーに提がるミトンは、お裁縫が得意だというお母様の手づくり。その他のキッチンツールも同じようにバーに吊り下げて、使い勝手よく整頓されています
——大規模な団地に住んで環境の変化はありますか?
K様:オートロックではなくなることが当初は不安でしたが、住んでみるとこの辺りは住人以外はほとんど通らないので、すぐに気にならなくなりました。それと、自治会がとてもしっかりしているんです。段ボールやペットボトルなどの資源ゴミは市のゴミ収集とは別で収集して自治体の収入に計上していたり、お掃除のボランティアを募って定期的に掃き掃除をしたりしています。以前の住まいは入れ替わりが激しくさほどご近所付き合いはありませんでしたが、今は敷地内で住民の方に出会うと、必ず挨拶をしあうのも安心感があります。
——私もこちらへお邪魔する道中、お掃除されている方を何人もお見受けしました。自治会がしっかりしているのは良いですね。

▷靴はオープンに並べて。玄関の土間スペース奥に設けた収納には防災用具や盆栽の道具を収納しています

▷アパレルショップのように綺麗に整頓されたクローゼット。箪笥は結婚時にご主人がプレゼントしてくださったそう
——ここに引っ越して1年。四季を通して住んでみていかがですか?
K様:エアコンがよく効くので真夏でもエアコン1台で十分でした。ただ、冬の寒さが予想外で、予算の都合でカットしてしまった床暖房を入れればよかったと実は少し後悔しています。

▷キッチンの床には、滑りにくく足当たりが柔らかいコルクタイルを採用。冬場でもヒヤッとせず、長時間パンを捏ねていても足腰が疲れにくい、立ち仕事に優しい素材です
——隣の八王子は雪が降る時期になるとよくTV中継されていますし、23区内とは気候が少し変わりそうです。
K様:春から初夏にかけては、窓を開けると風が通り抜けて本当に気持ち良いのですが、冬になると冷気が吹き込んで寒くって!以前の間取りではトイレの窓が塞がれていたのですが、その理由が住んでみてわかりました。寒いから塞いでいたんだなと(笑)。
——時を超えて住人同士で共感されたのですね(笑)。
K様:昨年の冬は加湿器を使いつつエアコンをフル稼働していたのですが、やはり乾燥が気になって。今年はデロンギのオイルヒーターを導入したところ、なかなか良い感じです。
齋藤:サッシに内窓を設置するのも効果的ですしね。

▷1年目の冬の寒さに耐えられず今年はデロンギのオイルヒーターを購入。じんわりと温まる心地良さを実感中

▷日本橋にあるリグナテラス東京で購入されたダイニングテーブル。1辺だけが曲線と非対称な天板がユニークです。インナーテラスには今は何も物を置いていないそうです
——今後はどのように住まいを更新していきたいですか?
K様:DIYはしたことがないのですが、テラスを改装したくてYouTubeを見ながらイメージを膨らませています。壁面に有孔ボードを貼って盆栽用のハサミなどをかけておくと便利かなと。
——テラスに盆栽を置くのも良さそうですよね。
K様:それも考えたのですが、盆栽の先生によるとベランダで越冬できるそうです。発泡スチロールの中に土を敷いて、そこへ鉢ごと盆栽をのせて二重鉢にすると冬は越せるよと教わりました。今年の冬はそれに挑戦してみるつもりです。
——四季を感じながら日々を慈しんでいらして素敵です。本日はありがとうございました。

▷シンプルな寝室で目を引くAPROZのブラケットライト。壁裏にもライトを忍ばせ、直接光が目に入らないように工夫しています
整理整頓しモノを少なく生活されている一方で、新たなエリアに移り住んだり、趣味に没頭されたりと、自身の心地よさのポイントを理解し、うまくバランスをとって暮らしていらしたK様。大人世代になるにつれ、新しい世界へ踏み出すことが億劫に感じることも増えますが、好奇心のアンテナをはって楽しみを増やすことは、健やかに年齢を重ねるのに不可欠だと感じた取材でした。
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