二人暮らし/71〜80㎡
横浜市内のベッドタウンにある戸建てに暮らしていた60代と50代のHさんご夫妻。「将来を考えると街暮らしが便利」と、横浜港が見えるベイエリアの中古マンションに住み替えました。ご主人のDIY欲を受け止めるシンプルなハコとしての空間づくりと、住み替えで気になる「持ち家はどうしたのか」についてお話を伺いました
▷「街暮らし」を体感できる眺め窓から見えるのは、ベイブリッジに赤レンガ倉庫、湾内をゆっくり巡航する大型船、そして海。Hさんご夫妻が暮らすのは、目前に横浜港の景色が広がる築20年超えのタワーマンション
ご主人:この家は分譲当時のままの約70㎡/2LDKという間取りだったので、洗面や浴室は窓のない玄関側で、窓側には個室がある、という配置でした。私たちは夫婦2人暮らしなので、ワンルームのような広がりのある空間にしてもらいました。私はできる限り躯体に沿って壁をつくったほうが空間が広くなるとしかイメージしていなかったのですが、設計を担当してくれた岡野さんが、雁行しないよう壁の位置を合わせたり梁の下に建具の高さを合わせるといった工夫で、スッキリ見える空間にしてくれました。
▷燦々と注ぐ光と眺望が気持ちの良い洗面空間。壁面に整然と納まったタイルが、海外のホテルのような空間を一層エレガントに見せています
ご主人:あと、叶えたかったのは、窓に面した洗面室。朝、洗顔や歯磨きを明るいところでしたかったんです。洗面からの光がダイニング側に少しでも入るようにしたくて、開けっぱなしにできるつくりにしてもらいました。洗面室のドアは開けると洗濯機ブースを隠すドアになっているんですよ。
それと、洗面室はタイルをカットせずに張り上げられるよう、タイルのサイズに合わせて壁の幅と高さを計画してもらいました。本来はできる限り天井を高くしたいところですが、タイル面の美しさを取りました。
▷キッチンのコンクリートのような表情の面材と、白いタイルのコントラストがクールなキッチン
(設計担当)岡野:キッチンの壁も洗面室と同じようにタイルのサイズに合わせて壁面の寸法を決めています。これらも、空間をスッキリ見せるための工夫です。
—キッチンはシックな色味ですね。
奥様:システムキッチンはGRAFTEKTのものを施主支給で入れました。オープンキッチンはあまり自分たちの好みではなくて、以前の家と同じ独立型に。手元灯を棚に埋め込んで欲しいと岡野さんにリクエストして、叶えてもらいました。
▷壁面いっぱいの本棚が部屋の奥行きを強調する寝室。本棚は梁に合わせた高さでサイズオーダー
ご主人:横浜港と東京都心の2方向を見渡すことができる寝室は、たっぷり広さを確保しました。窓辺にレイアウトした大きなテーブルは、私がリモートワークをする際のワークスペースです。
—壁一面の本棚が圧巻ですね。こちらは造作ですか?
ご主人:いえ、これはmargherita(マルゲリータ)という既製品の本棚で、岡野さんが紹介してくれました。照明器具や電源タップのコードが通せるように、棚板の一部に穴を開けるカスタムオーダーをしています。ヘッドボードの部分は私がDIYで製作したものです。
▷照明の配置が美しいベッドサイド。明かりの操作で広い寝室にスポットを演出するアイデア
ご主人:ここにあるフィリップ・スタルクの照明「MISS SISSI」は20年以上前から持っているものです。ベッドサイドのスイッチでオンオフが操作できるようになっていて、自分で照明配線を計画して工務店さんに電気配線を依頼しました。
▷ダイニングの奥まで見通せる空間。エアコンは天井埋め込み型にして壁も天井面もすっきり
ご主人:私がリノベーションでこだわったのは、キッチンや洗面などの水回り、床・壁・天井の位置や納まり、電気配線など、後から自分で変えることが難しい部分だけです。僕は、ここに何を置くとか、この場所はこう使うとか、最初にきちっと決めることができないんですよ。やってみながら考えたり、ここにこれが欲しいと思ったら作ってみたり、気に入らなかったら変えてしまう。サイドボードも、設計当時はダイニングの玄関側の壁際に置くことを想定していたんです。だから、どんなふうに家具や家電をレイアウトしてもいいような空間にしてもらいました。きっと3年後にはいろんな物の配置ががらりと変わっていると思います。
▷まるでテーラーのようなH邸の玄関。ご主人がカスタマイズしやすいように、壁下地をラワンコンパネにしました
▷トイレは玄関ホールにあり、手洗い器をつけました。棚の下部分はご主人のDIYによるもの
岡野:ぱっと見ただけではわからないと思いますが、玄関周りはほどんどご主人のDIYですよ。
ご主人:正面にあるヴィンテージチェスト以外はほどんどそうです。下部に引き出しのついたハンガーラックも、可動式のワードローブも、さらに天井際の枕棚も、入居後にDIYで造作しました。今すでにあるものをベースに、どうしたらもっと良くなるかなと考えるのが好きなんです。ワークスペースのテーブルも、普通の高さだとバルコニーの手摺に視線がぶつかって景色が見えなくて、元々持っていたテーブルの脚を昇降式の脚に取り替えたんです。ここでぼーっと海や船を眺めながら、次はこういうのつくろうかな、と考える時間が好きです。
—リノベーションでは、自分らしい空間づくりを楽しんでいくためのベースとなるハコを作ったという感じですね。
▷サイドボードも実はDIYによるカスタマイズ済み。梁下に鏡が納まるよう脚を取り付けたり、鏡の下の台はDIYで制作
—H様は住み替えでいらっしゃいますよね。以前はどのような暮らしをされていたのでしょうか。
ご主人:以前は、横浜市の戸塚区にある戸建てに家族4人で住んでいました。住み替えをしようと思ったきっかけは、コロナで僕がリモートワークになったことと、子どもたちの大学卒業、そして家のローンの支払いが終わったことでした。あとは、便利なところに住みたかったんですよね。当時の家は近くに大きなスーパーがなく、週末に車で買い出しに行く生活を20年以上続けていました。歳をとると歩くのも大変になるし、街暮らしのほうがいいだろうと。それで横浜駅周辺で物件を探して、見つけたのが現在の家でした。同じマンション内で数件見ました。ここはタワーマンションですが、タワーマンションに絞ったわけではなく、この辺りで探すと必然的にそうなったという感じです。
—T様は EcoDecoへは物件を決めてからいらっしゃったわけですが、どういったきっかけだったのでしょうか。
ご主人:岡野さんのオンラインセミナーを受けて、それがよかったので相談しました。
奥様:リフォーム済みのお部屋も内見したのですが、やはり綺麗に整えられたところよりも、自分達で好きなようにしたいよね。ということで、ほぼ建築当時のままの内装だったこのお部屋に決めました。
ご主人:実は40年くらい前、BRUTUSの『居住空間学』特集を読んで、空間づくりの面白さに目覚めたんですね。BRUTUSを通じて、安藤忠雄や石山修武も知りました。でも、その後に買った家は建売住宅。そこ矛盾してるだろって言われるかもしれませんが(笑)、当時は土地と建物が一緒じゃないとローンが組めなかったりして、注文住宅を建てるのは大変だったんです。
▷ご主人が「空間づくり」の面白さに目覚めるきっかけになったという、40年前のBRUTUS。本棚に大事にしまわれています
奥様:主人は、その以前の家で色々とDIYでいじっていたんですよ。
ご主人:今のこの家も色々とDIYで作っていますが、この場で作っているわけではなくて、DIYをするためのぼろぼろの戸建を横浜市内に購入して、製作場にしています。家族には大きなおもちゃと言われています。
岡野::ここでどうやって作っているんだろうかと気になってたんです。そういうことだったのですね。
—こちらのお住まいは住宅ローンを使われましたか?
ご主人:短い期間ですが、使っています。夫婦で働いていますので、審査時に年齢がネックになることはありませんでした。戸塚の家を売却すれば現金で購入するという選択肢もありますが、今は低金利ですし住宅ローン控除もありますので、借入しています。そして、戸塚の家は「働く家」として賃貸に出して運用しています。今売っても、将来売っても土地の価値はそう変わらないことを考えると、いざという時に売却して利益が得られるように備えています。
—なるほど。そういった考えに至るきっかけがあったのでしょうか。
ご主人:自分の親が亡くなったときに、まとまった生活資金が残っていたことがわかって。どれだけ生きるかわからない中でどの程度残しておくかの見通しを立てることは難しいなと感じたことがきっかけになっています。
▷お気に入りだというTRUCKのソファでくつろぐ奥様。持ち物を整理できたことも住み替えて良かったことだと話します
奥様:住み替えをして、暮らしはとても穏やかになりました。子育ても終わって、背負っていたものから解放された気持ちもあります。家族みんなで暮らしていた時はどうしてもみんなの趣味が混ざってしまっていたけど、今は私たちが好きなものだけに囲まれた暮らしができる。精神的な豊かさを感じています。
▷装飾性を抑えたシンプルな空間を、ヴィンテージのサイドボードや北欧家具が彩っています
▷リビングダイニングの壁面にはブラケットライトを設置。夜はホテルのような落ち着いた雰囲気をつくってくれます
▷ご主人作のハンガーラック。下部の引き出しは、既製品のプラスチックケースに木の面材を取り付けているのだそう!
現在ご主人は、南区の家を改造しながら、横浜のマンションで使うものを作ったり、そちらでリモートワークをすることもあるそう。「当初の計画にはなかった存在ですが、おかげでこのスッキリした暮らしが成立しています」と奥様。住居用、運用用、遊び用。3つの家を使いこなすHさんご夫妻のスタイルは、大人世代がこれからを楽しみながら賢く生きる方法として、参考になりそうです。
↓H様邸の画像をまとめてご覧になりたい方はこちらから(Pinterestのサイトへ移動します。)
H様邸の現場では、大枠の変更はありませんでしたが、玄関先の計画や寝室の収納等は工事がスタートしてから大きく調整することになったため、工事中も現場や事務所で打合せを重ねつつ進めていきました。 H様のようにお子様達が独立され、2人暮らしになったご夫婦のリノベーションでは、初めて家を購入される方とは違い、ご要望や判断に今まで培った暮らし方や経験が強く反映されていると感じることも多いです。また、フルオーダーのリノベーションは、完成品を購入するのとは違い、設計図から完成後をイメージしていただく事が重要になってきます。 そのため、H様は工事が始まった現場の状況から諸々の状況を改めて整理され、「暮らしながらDIY/固定化させない暮らし」という本来のスタイルをより明確にされたと思います。工期等に影響は出ますが、現場での計画調整を行った事で、H様らしい住まいになったと思えるプロジェクトでした。
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